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株式会社ジールの次の一手は?

住宅部門は、経済のなかでも最も金利感応度が高い分野であり、住宅ローンの金額が急増し、これらの人々が住宅購入に殺到したことで住宅の価格が急上昇したからである。 利下げ後の住宅価格は、前年比10%、あるいはそれ以上で上昇していった。
日本では、199O年に株価が暴落するとともに不動産価格も一緒に暴落した。 その結果、日本経済は先ほど触れた「バランスシート不況」に見舞われることになった。
株と不動産が同時に暴落した結果、企業の資産は一気に目減りしてしまい、彼らのバランスシートは目も当てられないような惨状に陥った。 バランスシートが段損した状態では企業は家計部門の貯蓄を借り受け、それを投資に回すといった経済行動がとれなくなるどころか、自身も借金返済に回るようになる。
そうなるといくら日銀が金利を下げても、借り手が出てこない。 しかも、株と不動産は経済のなかでももっとも金利感応度が高いジャンルであり、この2つがバブルの崩壊で凍結状態になってしまうと、日本経済のなかで利下げに反応する業界がなくなってしまったのである。
そこで1990年代の日本では、日銀がいくら金利を引き下げても経済がピクリとも反応しないという事態が発生したわけであるが、アメリカの場合は、ITバブルが極めて限定的なバブルだったので、健全な住宅市場が残っており、それをグリーンスパンは低金利で刺激したのである。 アメリカはITバブルの崩壊と9・11テロという2つの危機を乗り越えることができたのである。
たしかにアメリカの財政赤字は一時大きく膨れ上がったが、結局、それは不況回避に大きな成果を上げたのである。 規模においても、それに絡む人の数においても、ITなどとは比較できないほど規模が大きいからだ。
実際に2000年代前半のアメリカのGDP成長率の6割以上が住宅と住宅関連によるものだった。 だから、住宅バブルが崩壊したら大変なことになってしまうのである。
グリーンスパンは、もちろんそんなことは承知していたと思われるが、実は彼は彼なりのプランを持っていた。 それを推理すれば、以下のようになる。

スシートはかなりのダメージを被った。 その結果、彼らは一斉に借金返済に回り、これを放置しておいたらアメリカ経済は90年代の日本と同じ状況に陥ってしまうだろう。
日本の場合、バブルが崩壊後、企業の資金調達がマイナスになるまで7年間かかっている。 つまりその7年間はまだお金を借りる企業があったのである。
それが96、7年あたりから日本企業は借金返済に移るようになった。 アメリカの企業は、バランスシートに綻びが生じたら、直ちに借金返済に回るはずだ。
ということは、この間アメリカの民需は大幅に減少することになるが、この時期、減税と住宅バブルでGDPを支えることができれば、企業は借金返済に必要な収益を手にすることができる。 この状況を数年間維持できれば、アメリカ企業のバランスシート修復はやがて完了する。
当然、金利は上がっていく。 金利が上がっていけば、住宅バブルは自然消滅するだろう。
そうなればアメリカ経済はITバブルと住宅バブルを経て、最後は健全な企業部門が設備投資で景気を牽引している姿に落ちつく。 グリーンスパンのマスタープランだったのである。
これはよくできたプランで、最初の数年間はまったくそのシナリオどおりにうまくいった。 それゆえ、ITバブルが崩壊し、9・11テロであれだけのダメージを受けながら、アメリカのGDPはほとんど落ちなかった。

GDPが減少しなかったということは、企業にはそれだけの収益があったことになり、彼らはその収益でバランスシートの修復もどんどん進めていった。 その結果、アメリカ企業の財務はどんどん健全化していった。
またグリーンスパンは、このようなマスタープランがあったので、あえて「住宅バブル」という表現を使わなかった。 私はかつてFRBから奨学金をもらっていたこともあって、日本に来てからの十数年間、毎年FRBに行ってセミナーを開催し、日本の経済状況を説明してきた。
そのセミナーでは私が日本国内や海外の投資家に見せる資料をそのまま使っているが、20O2年からO3年あたりになると、私の資料のなかにも「米国のハウジング・バブル(住宅バブル)」という表現が出てくるようになる。 すると、セミナーに参加しているFRBのスタッフたちがこの表現にクレのなかではームをつけてきたのである。
アメリカの場合、ITバブルの規模が限定的だったため、実際のバランスシート修復作業はたちにとっては相当堪えたらしく、その後も全然お金を借りにこなくなってしまったのである。 さらに、これも日本で起こったのとまったく同じ現象であるが、企業はそれまでバランスシートの修復に回していたキャッシュフローをそっくりそのまま設備投資に使えるようになり、借金をしなくてもかなりの設備投資ができるようになった。
実際、アメリカの設備投資はこの時期から急拡大していった。 そうすると、当局としては、景気は上向いているのに政策金利をいつまでも超低水準に置いておくわけにはいかない。
その一方で、民間資金需要がどこにも見当たらない。 資金需要がなければ市場金利は上がらない。

とりわけ長期金利は上がらないという事態が発生した。 グリーンスパンの「大失敗」につながった。
短期金利は中央銀行がコントロールできる。 同行が上げようと思えばいくらでも上げられる。
長期金利はそうはいかない。 長期金利はマーケットが決めるものだからである。
お金を借りようという人がいなければ長期金利は上がらない。 短期金利は上がっているのに長期金利は下がるという事態まで発生した。
結局、最後には長短金利が逆転するまでになった(長期金利が短期金利を下回る現象)。 これを「逆イールド」と呼んでいるが、通常は、将来の不況(すなわち、金利の下落)を心配する人たちの経済行動によって逆イールドが起こると言われるが、今回はお金を借りる人がいないために逆イールドが生じたのである。
グリーンスパンは議会証言のなかで2回ほど、「自分には理解できない現象だ」と発言した。 彼は景気循環論者だが、「これくらいの景気循環の局面であれば、通常のアメリカ企業はキャッシュフロー以上の資金調達をするはずなのに、全然そうなっていない」と言っている。
公の場でグリーンスパンがそのように発言したことは、いかに自分の想定外の世界が目の前に展開しているか、ということを自ら認めたことになる。 もし企業が資金調達を再開していれば、FRBの短期金利引き上げとともに長期金利も上がっているはずであり、またそうなっていれば、住宅市場は長期金利に敏感に反応するため、その時点から住宅バブルは沈静化していったはずである。
実際には長期金利は上がらなかった。 そのため、当初グリーンスパンが想定した20O4年央からの住宅バブルのガス抜きは実現しなかったのである。
グリーンスパンは、自分の想定外の展開になっていたにもかかわらず、住宅バブルに対して警告を発しなかった。 「住宅価格は70年間下がらなかったのだから今回も大丈夫だ」とまで言ってしまった。
当時のグリーンスパンはマエストロと呼ばれるほど中央銀行マンとして評価が高く、まさに神様あつかいだった。 その「神様」がバブルではないと断言したので、金融機関も住宅関連の人たちもみんなE心してしまったのである。

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